・・・というような字余りの談林風を吹かして世間を煙に巻いていた時代であった。この時代を離れては緑雨のこの句の興味はないが、月落ち烏啼いての調子は巧みに当時の新らしい俳風を罵倒したもので、殊に「息を切らずに御読下し被下度候」は談林の病処を衝いた痛快・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・書中乾胡蝶からになる蝶には大和魂を招きよすべきすべもあらじかし 結句字余りのところ『万葉』を学びたれど勢抜けて一首を結ぶに力弱し。『万葉』の「うれむぞこれが生返るべき」などいえるに比すれば句勢に霄壌の差あり。・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・落ち埋むと字余りにして埋むを軽く用いたるは蕪村の力量なり。よき句にはあらねど、埋むとまで形容して俗ならしめざるところ、精細的美を解したるに因る。精細なる句の俗了しやすきは蕪村のつとに感ぜしところにやあらん、後世の俳家いたずらに精細ならんとし・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫