・・・ 記してあるのみならず、平生予に向っても昔し蘇東坡は極力孟子の文を学び、竟に孟子以外に一家を成すに至った。若しお前が私の文を学んで、私の文に似て居る間は私以上に出ることは出来ない。誰でも前人以外に新機軸を出さねばならぬと誨えられた。・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・もともと女であるのに、その姿態と声を捨て、わざわざ男の粗暴の動作を学び、その太い音声、文章を「勉強」いたし、さてそれから、男の「女音」の真似をして、「わたくしは女でございます。」とわざと嗄れた声を作って言い出すのだから、実に、どうにも浅間し・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・よく学び、よく遊ぶ、その遊びを肯定する事が出来ても、ただ遊ぶひと、それほど私をいらいらさせる人種はいない。 ばかな奴だと思った。しかし、私も、ばかであった。負けたくなかった。偉そうな事を言ったって、こいつは、どうせ俗物に違いないんだ。こ・・・ 太宰治 「父」
・・・東京の医者の子であったが、若い頃フランスに渡り、ルノアルという巨匠に師事して洋画を学び、帰朝して日本の画壇に於いて、かなりの地位を得る事が出来た。夫人は陸奥の産である。教育者の家に生れて、父が転任を命じられる度毎に、一家も共に移転して諸方を・・・ 太宰治 「花火」
・・・忠やかなる読来れば我知らず或は笑い或は感じてほと/\真の事とも想われ仮作ものとは思わずかし是はた文の妙なるに因る歟然り寔に其の文の巧妙なるには因ると雖も彼の圓朝の叟の如きはもと文壇の人にあらねば操觚を学びし人とも覚えずしかるを尚よく斯の如く・・・ 著:坪内逍遥 校訂:鈴木行三 「怪談牡丹灯籠」
・・・一枚の代価十三銭であるが、その一枚からわれわれが学べば学び得らるる有用な知識は到底金銭に換算することのできないほど貴重なものである。今かりにどれかの一枚を絶版にして、天下に撒布されたあらゆる標本を回収しそのただ一枚だけを残して他はことごとく・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・とか「学びてしるは、まことの智にあらず」などと云っているのは現代人にも思い当たるふしがあるであろう。 智恵の遊戯とも見られるウィティシズムの類例もいくつかある。第八十六、第百六、第百三十五などがそれであるが、これらにも多少の俳諧がある。・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・自然の神秘とその威力を知ることが深ければ深いほど人間は自然に対して従順になり、自然に逆らう代わりに自然を師として学び、自然自身の太古以来の経験をわが物として自然の環境に適応するように務めるであろう。前にも述べたとおり大自然は慈母であると同時・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ ○ そもそもわたくしは索居独棲の言いがたき詩味を那辺より学び来ったのであろう。わたくしはこれを十九世紀の西洋文学から学び得たようにも思い、また江戸時代の詩文より味い来ったもののような気もする。わたくしはたとえ・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・ わたしが昼間は外国語学校で支那語を学び、夜はないしょで寄席へ通う頃、唖々子は第一高等学校の第一部第二年生で、既に初の一カ年を校内の寄宿舎に送った後、飯田町三丁目黐の木坂下向側の先考如苞翁の家から毎日のように一番町なるわたしの家へ遊びに・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
出典:青空文庫