・・・今自分の頭で解剖すれば、その時の自分の心もちは、道徳の上で丹波先生を侮蔑すると共に、学力の上では毛利先生も併せて侮蔑していたとでも説明する事が出来るかも知れない。あるいはその毛利先生に対する侮蔑は、丹波先生の「あの帽子が古物だぜ」によって、・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・ と、呟きながら読んで行って、「応募資格ハ男女ヲ問ハズ、専門学校卒業又ハ同程度以上ノ学力ヲ有スル者」という個所まで来ると、道子の眼は急に輝いた。道子はまるで活字をなめんばかりにして、その個所をくりかえしくりかえし読んだ。「応募資格ハ・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・この少年は数学は勿論、その他の学力も全校生徒中、第二流以下であるが、画の天才に至っては全く並ぶものがないので、僅に塁を摩そうかとも言われる者は自分一人、その他は、悉く志村の天才を崇め奉っているばかりであった。ところが自分は志村を崇拝しない、・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・すると、正直に先生に其の旨をいって御尋ねする、それなら何を読んだら宜敷かろうと、学力相応に書物を指定して下さるといったような事で誰しも勉強したものです。 そういう訳で銘々勝手な本を読みますから、先生は随分うるさいのですが、其の代り銘々が・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・帝大とよばれた時代でも学力と学資があれば、もちろん、士族、平民という戸籍上の差別が入学者の資格を左右するものではなかった。しかし、日本のあらゆる官僚機構と学界のすべての分野に植えこまれている学閥の威力は、帝大法科出身者と日大の法科出身者とを・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・由子は勿論お千代ちゃんは容易く試験を通るとその学力を信頼していた。そうでもなければ、市長からわざわざ御褒美を貰い、新聞で紡績の装を褒められたとて何になろう。 然し、お千代ちゃんを助けるつもりで、由子は自分の家で、一つ机でお千代ちゃんと一・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・明治の開化期では、ほんとに婦人も男子と等しい学力をもって勉強したのに、憲法発布の後は、政談演説さえ婦人はきいてはいけないこととなって、今日に及んだ。 歴史のより前進した今日の段階の日本で、その民主化には全く国運が賭されている。失われた数・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
出典:青空文庫