・・・何となし、訳文の精神とでもいうべきものが、もう少し高められていたら、どんなに完璧な芸術のよろこびが感じられただろうと思えるところがある。 訳者は熱のこもった態度で仕事している。その面の無気力が反映しているというのではない。それとは別のも・・・ 宮本百合子 「翻訳の価値」
・・・「つまり知性の到達出来る一種の限界まで行っている義理人情の完璧さのためにも早や知性は日本には他国のようには必要がないのだと思う」という迄に常軌を逸したのであった。 日本の外へ出て見ると、内にいた間には見えなかった日本が見えるのは当然であ・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・ 文学作品そのものも、古典となってのこされているものは歴史の一面の宝玉であるわけだが、文学に於ける伝統としての歴史が今日果して、自然に創られた時のままの完璧さでそれらの古典をつたえるに堪えているだろうか。 歴史と文学との交渉で、この・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
・・・さて今の文壇になってからは、宙外の如き抱月の如き鏡花の如き、予はただその作のある段に多少の才思があるのを認めたばかりで、過言ながらほとんど一の完璧をも見ない。新文学士の作に至っては、またまた過言ながら一の局部の妙をだに認めたことが無い。予は・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・題材の持ち得る一番困難なところが一つも書いてはなくて、どうすれば成功するかという苦心の方が目立ってきて、完璧になっている。いいかえれば一番に失敗をしているのだ。佐助の眼を突く心理を少しも書かずに、あの作を救おうという大望の前で、作者の顔はこ・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫