・・・の原稿が夫程の手数が省けたとて早く出来上る性質のものでもなし、又ペンにすれば余の好むセピヤ色で自由に原稿紙を彩どる事が出来るので、まあ「彼岸過迄」の完結迄はペンで押し通す積でいたが、其決心の底には何うしても多少の負惜しみが籠っていた様である・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・勝負は小勝負九度を重ねて完結する者にして小勝負一度とは甲組が防禦の地に立つ事と乙組が防禦の地に立つ事との二度の半勝負に分るるなり。防禦の地に立つ時は九人おのおのその専務に従い一、二、三等の位置を取る。但しこの位置は勝負中多少動揺することあり・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・が解せないようにもある。微妙な事情があって、そういう形式がとられたとして、何故、外国旅行に出るという前の外見は華やかであって、実は平凡な夜、その勘当は許され得るのであろう。「夜明け前」が完結した時に、老境に在る芸術家にとって真に感想深かるべ・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・評伝は十二月初旬小説が終ってから再びつづけて、前半のように緻密にして生活的であり、生活と芸術とその歴史性の掘下げでユニークなものを完結します。小説もそのように生活のディテールと活力の横溢したものにしたいと思います。「乳房」を書いているから、・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・の選定が完結し、既に第一巻は出版されていることに一言ふれたい。「新万葉集」の選定されるに到った動機には、同質ならざる二様の意図が作用していたと思われる。一つは、明治・大正・昭和に亙る聖代に日本古来の文学的様式である和歌の歩んで来た成果を収め・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
『中央公論』の新年号に、アンドレ・ジイドのソヴェト旅行記がのっている。未完結のものであるが、あの一文に注目をひかれ、読後、様々の感想を覚えた読者は恐らく私一人にとどまらなかったであろうと思う。 間もなく、去る一月六日から・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・はこれから二年ぐらいの間に完結したいと思っている長篇小説の発端で、彫刻で云えば、まだやっと頭の、しかもその一部分しか現れて来ていないものであるが、これはこれとして一篇をなしていると思う。 私たち一部の作家が、この数年間に経験して来た生活・・・ 宮本百合子 「序(『乳房』)」
・・・しかし、一つの声なり行動なりがそれ自身完結完成しているということはあり得無いのだから、今日から明日へつづく現代の歴史的な推移の間で、私たちは自分たちとしての生のモラルを掴まなければならず、現代に生れあわせた最高の可能を知らなければならないの・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・を前年度において示しています。 たとえば野間宏氏は「暗い絵」を完結して「肉体は濡れて」「顔の中の赤い月」「華やかな彩り」とうつってきましたが主題の小ささにくらべて長い小説にまとめてゆく文学上の危険な現象を、本年はどのように緊密な方向へ発・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・を待っているという人も居なかったし、不馴れな多人数での外国旅行で、さすがの父にも、この「西欧行脚」を完結することは不可能であった有様がうかがわれます。 以下に、折々の通信のほんの一部分を抄出し、これらの通信の書かれた当時の雰囲気紹介のた・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
出典:青空文庫