・・・それよりも大切なのは十七字の定型的詩形から来る音数律的な律動感である。 短い詩ほど詩形の規約の厳重さを要求する。そうでなければ、詩だか画題だか格言だかわからなくなる。のみならず、近来わが国諸学者の研究もあるように、七五の音数律はわが国語・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ そういう、現在のわれわれには夢のような不思議な詩形ができる日が到着したとして、そのときに現在の十七字定型の運命はどうなるであろうか。自分の見るところでは、たぶんその日になっても十七字俳句はやはり存続するであろうと思われる。生物の進化で・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
一 俳句の成立と必然性 五七五の定型と、季題および切れ字の插入という制約によって規定された従来普通の意味での俳句あるいは発句のいわゆる歴史的の起原沿革については、たぶんそういう方面に詳しい専門家が別項で述べ・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・ これはしかし記者自身が人間の心理を理解しないのではない、ただいわゆる社会記事の「定型」というものが、各種の便宜的必要からおのずからきまってしまって、それによらないわけには行かないためだという説明を、そのほうの事情に通じた人から聞いた事・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・少くとも自然を描こうとする感情の中から余計な支那的誇張、風流の定型、哲学的衒学を洗いすてようとしたことからだけでも、写生文の運動は相当評価されるべきであると思われるのである。 現代の文学において、自然というものは、きわめて特徴的な歴史的・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ 怪物 ステファン・ツワイクはフーシェを、一人のロマン的人物として定型した。――次から次へと裏切らずにはいられない悲喜劇的性格として。ツワイクによってこういう風に主観化されうすめられたフーシェとバルザックが描い・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・一つは、左翼的な或る作家の経験であるが、そのA氏は日本の企業界で歴史的に有名な或る会社の現実を、芸術に描こうと発意し、日本の実業家列伝中でも巨星であるその会社の創始者のやりかたなどを定型的資本家の観念で考えていた。創作の準備がすすむにつれ実・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・ふだん其等の人々の書いていらっしゃる言葉づかいと、何かちがって受け身な言葉づかいで、妙に襷をかけて膝をついたり、旗をヒラヒラやって涙ぐむのが、慰めの定型のようでもある。岡本かの子さんは、近頃一貫してああいう感情表現をしていられるが、村や店先・・・ 宮本百合子 「身ぶりならぬ慰めを」
・・・ これらのさまざまの声々の底には、女というものはしかじか、女の幸福はしかじか、という定型へのものわかりよさ、困難をさけようとするときのおのずからなるものわかりよさが、作用しているのである。 愛すべき若い人生のどの位の部分が、この悲し・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
出典:青空文庫