・・・論の水源は、「マルクシズムという実証主義の精神」に「突きあたって跳ねかえったものなら、自由というものは、およそどんなものかということぐらい知っていなくちゃ、もうそれは知識人とはいえないんだ」というところにあった。そしてその自由というのは「自・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・に讚歎するとき若い婦人たちはそれぞれの主人公たちの伝奇的な面へロマンティックな感傷をひきつけられ、科学というとどこまでも客観的で実証的な人間精神の努力そのものの歴史的な成果への評価と混同するような結果をも生むのである。 婦人の文化の素質・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・拡大であるかもしれないが、ソヴェト同盟にとっては全然実現可能の必要欠くべからざる生産拡張計画であると同時に、今度の五ヵ年計画はその社会的意味に於てこれまでのものとは非常に違うことを、五ヵ年計画二年間に実証した。 レーニンはソヴェト同盟が・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・このことは、現代生活と文学とから研究の分野を切りはなしてしまったのみならず、専門家間に実証主義という名で呼ばれているそうであるところの一部の研究家を、その準備的研究の上に固着せしめ、枕草子の専門家或は大鏡の専門家という、瑣末な活動に封鎖する・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 社会が単純な時代、私たちの実証性の対象は、感覚で確かめられる世界の実在であった。今日、わたしたちが日々の悲喜の源泉を辿ろうとするとき、それは呪わしいばかりに複雑である。わが心に銘じる悲しみが深きにつれて、文学はその悲しみを追求すること・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・日本絵の具をもって西洋画のごとき写実ができないはずはない――この事実を氏は実証しようとしているかに見える。小林氏が写生を試みて写実にならなかったのとは著しい対照である。また小林氏ができ得るだけ静かな淡い調子を出しているに反して、この画はでき・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・信玄自身は謙信に対する尊敬によってこのことを実証していたのであった。信玄の遺言といわれるものは、勝頼に対して、おれの死後謙信と和睦せよ、和睦ができたらば、謙信に対して頼むと一言言え、謙信はそう言ってよい人物であると教えている。真偽はとにかく・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・例えば、優れた作品ほど正当な鑑賞を受けにくいということは、古来の偉大な作品が明らかに実証している。だから作品を公開する場合には、公衆の中の何割かが正当な芸術的鑑賞に堪えないものであることを許してかからねばならない。そこで、正当に鑑賞されない・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・そうして彼らは、自分を圧倒する激しい感激によって、その知識の偽りでないことを自分自身に実証した。彼らは自己の前にある物が右のごとき神秘な力の現われであることを信ずるほかはない。またそれを礼拝しないではいられない。 しかし真に彼らの感激を・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・が、このように自然的な動きを殺すことが、かえって人間の自然を鋭く表現するゆえんであることは、能の演技がきわめて明白に実証しているところである。それは色彩と形似を殺した水墨画がかえって深く大自然の生を表現するのと等しい。芸術におけるこのような・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
出典:青空文庫