・・・大衆的な某誌は、その反動保守的な編輯方針の中で、色刷り插絵入りで、食い物のこと、悲歎に沈む人妻の涙話、お国のために疲れを忘れる勤労女性の実話、男子の興味をそそる筆致をふくめた産児制限談をのせて来た。 また、或る婦人雑誌はその背後にある団・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・よく婦人雑誌の実話などのなかに、たとえば手内職から今日の富豪となる迄の努力生活の女主人公として女のひとの立志伝がのったりしますが、そういうひとの生涯でも、或る意味ではやはりえらいと云えるでしょう。普通の人間の忍べないと思うような辛苦をよく耐・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 日本の講和問題というと、それは政府の仕事で、私たち女などが発言する場所でないように思う習慣があるけれども、この恐ろしい悲しい実話一つを考えてみても、日本の婦人こそ平和について最も発言権の多い人々であることがわかります。 このあいだ・・・ 宮本百合子 「講和問題について」
・・・ と一頁ごとに刷ってある『主婦之友』を読みながら、護国の妻の実話にはげまされて、良人や息子を戦場におくった母や妻は、きょう未亡人となって行末を思いわずらい、眠りかねる夜の蚊帳の中で、昔なじみの『主婦之友』をひろげたりもするだろう。そしてあて・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・ このことは勿論卑俗な実話的意味で、作者が所謂裸になっていないことを指しているのでないことは明らかであろう。作品に形象化された現実が人をうつのは、それが只実際そうであったというとおりに書き連ねられたからではないところに芸術の面白さがある・・・ 宮本百合子 「二つの場合」
・・・次の実話は決して例外唯一の場合でなかった。 或る大規模の軍需工場で、八月十五日即日傭員の解雇をした。平均五、六百円の金を貰ったところが、当時俄かの復員と輸送網の破壊されている状態から遠い地方から来ている娘達、遠い地方から徴用されて来てい・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫