・・・ と、さすが客商売の、透かさず機嫌を取って、扉隣へ導くと、紳士の開閉の乱暴さは、ドドンドシン、続けさまに扉が鳴った。 五「旦那は――ははあ、奥方様と成程。……それから御入浴という、まずもっての御寸法。――そこ・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・迫った太い眉に、大い眼鏡で、胡麻塩髯を貯えた、頤の尖った、背のずんぐりと高いのが、絣の綿入羽織を長く着て、霜降のめりやすを太く着込んだ巌丈な腕を、客商売とて袖口へ引込めた、その手に一条の竹の鞭を取って、バタバタと叩いて、三州は岡崎、備後は尾・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・摺った揉んだの挙句が、小春さんはまた褄を取っているだがね、一度女房にした女が、客商売で出るもんだで、夜がふけてでも見なさいよ、いらいらして、逆気上って、痛痒い処を引掻いたくらいでは埒あかねえで、田にしも隠元豆も地だんだを蹈んで喰噛るだよ。血・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・高がお客商売の料理屋だ、今に見るがいい」と、吉弥はしきりに力んでいた。 僕は何にも知らない風で、かの女の口をつぐませると、それまでわくわくしていたお貞が口を出し、「まア、えい。まア、えい。――子供同士の喧嘩です、先生、どうぞ悪しから・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
出典:青空文庫