・・・中幅の白木綿を薬屋のように、フロックの上からかけた人がいると思ったら、それは宮崎虎之助氏だった。 始めは、時刻が時刻だから、それに前日の新聞に葬儀の時間がまちがって出たから、会葬者は存外少かろうと思ったが、実際はそれと全く反対だった。ぐ・・・ 芥川竜之介 「葬儀記」
・・・「杉原太郎兵衛、御願い申す。」「斎藤九郎、御願い申す。」「貴志ノ余一郎、御願い申す。」「宮崎剛蔵……」「安見宅摩も御願い申す。」と渋い声、砂利声、がさつ声、尖り声、いろいろの声で巻き立って頼み立てた。そして人々の頭は・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・去年両親が旅行した時もわざわざ宮崎へ泊って見物した由、帰っての話題に相当大きい役割を持っていた。 私共はそもそも初めの予定では鹿児島の方へは廻らない積りだった。廻ったらとても旅費が足りない。ところが、別府が危ぶんでいた通り思わしくなかっ・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・更に、ともかく無産政党に属して一旗あげんとした良人宮崎龍介氏は、それを如何に見たであろうか。「女には全く用のない玉の井」というのは女が私娼を買わないからの意味であろうが、深刻な東北地方の娘地獄の問題も、東京の夥しい失業女工の飢のことも、・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ 子さんが宮崎龍介氏との結婚を法律的に認めさせ、香織というかぐわしい名を与えたその赤子を自分たち夫婦の子として確保するために、二十数年前の日本で、因習と封建的な体面をすてて、どんなに雄々しくたたかったかということを知っているひとは、きょ・・・ 宮本百合子 「その願いを現実に」
・・・陸の境界をそれぞれの山で区切られている国々は、大分にしろ、宮崎にしろ、特色をはっきり保有している。鹿児島と長崎など、ただ一夜汽車に乗るだけで、見ぬものにこうも違おうとは考えられまい。私の願いは、いつかもう一遍、これ等の国々を、汽車の線路より・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・東京、大阪が最も密度濃いのは当然として、百世帯加入数辛うじて六以下という、ブランクによって示されている地方は、日本に於て、東北では青森、岩手の二県と、九州の突端の二つの県宮崎、鹿児島、琉球等のみである。 工業部門の職業でのラジオ加入は、・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
・・・私はとうとう宮崎虎之助さんのことを話した。宮崎さんはメッシアスだと自分で言っていて、またそのメッシアスを拝みに往く人もあるからである。これは現在にある例で説明したら、幾らかわかりやすかろうと思ったからである。 しかしこの説明は功を奏せな・・・ 森鴎外 「寒山拾得縁起」
・・・これを記している処へ、丁度宮崎虎之助さんの葉書が来た。「合掌礼拝。森君よ。ずっと向うに見えて居るのは何でしょう。あれは死ですね。最も賢き人は死を確と認めて居ますね。十二月七日。祈祷。」 次にわたくしは芥川氏に聞いた二三の雑事をしるして置・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・ 前からいた船頭の一人は宮崎の三郎といって、越中宮崎のものである。左の手の拳を開いて見せた。右の手が貨の相図になるように、左の手は銭の相図になる。これは五貫文につけたのである。「気張るぞ」と今一人の船頭が言って、左の臂をつと伸べて、・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫