・・・ 湿気、火事の要心のため、洋風にし家具を全部背いくるように落付いた色調。足音のしない床。〔一九二六年九月〕 宮本百合子 「書斎の条件」
・・・壁は暗緑色の壁紙、天井壁の上部は純白、入口は小さくし、一歩其中に踏入ると、静かな光線や、落付いた家具の感じが、すっかり心を鎮め、大きく広い机の上の原稿紙が、自ら心を牽きつけ招くようにありたい。 壁に少し、愛する絵をかけ、ゆっくりと体をの・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・ ――しかし、家具はもとのまんまです。 こっちの室も床は木だ。 ――スモーリヌイには、もっと広い、もっと立派な室がうんとあるんです。お姫さんの学校だったんだから。ところが、レーニンは、ここが好きだ。立派なところに坐ると窮屈だと笑・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ いろんな国の品物のいろいろな面白さのよろこびで一つ二つのものが、家のあちこちにひょい、ひょいとあるのは自然にうけられるけれど、家具調度一式琉球とか朝鮮とかいうところのもので埋める趣味があるとすれば、その一つ一つがもっている美しさとは、・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・ 美味いボルシチと久しぶりでの清潔なシーツとともに、それらを欲した。家具のにかわまでたべたソヴェト市民に、それらを欲する権利がなかったとでもいうのだろうか。 すべてのアクティヴな作家は、前線に、また前線に近い銃後に赴いて、彼らの文学的記・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・其金と、自分等の書籍と、僅かな粗末な家具が新生涯の首途に伴う全財産なのである。 兎に角、いくら探しても適当な家がないので、仕方なく、まだ人の定らない、十番地の家にすることに決定して仕舞った。 敷金と、証文とをやり、八畳、六畳、三畳、・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・そして、段々矢来の方へ来ると、彼処を通ったことのある人は誰でも知っている左側の家具屋、丁度その前のところを歩いている一人の若い女に目がついた。そこいらで人通りが疎になったばかりではない。若い女の服装が夜目に際立って派手であった。薄紫に白で流・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・別にこれぞと云うほどの事も、この村ではして居ないとは云うものの、荷馬の背に新らしい下駄や一寸した家具がつんであるのも、やっぱり、あらそわれない暮らしい気持がただよって居る。ほんとうに、暮の気持がただよって居ると云う位のもので、あの一番せわし・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・その囲りには古い家具が取りとめなくならんで、一番寝台に近い壁に十字架に登ったキリストの木彫が掛かって居る。その他の壁には、色の分らないまでに古びた絵等をはり、出窓めいた窓の縁に小さい鳥籠が置いてあって、中には何にも居ない。新らしい野・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・十月十日、出獄した同志たちは、治安維持法撤廃によって解体する予防拘禁所から、すぐ生活に必要な寝具、日用品、食糧、家具などをトラックにつみこんで、ここへ引越して来た。 重吉が網走からもってかえって来た人絹の古い風呂敷包みの中には、日の丸の・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫