・・・袖のある夜着は、今のでは寒中お困りでしょう! 洗濯毛布が入って毛布が二枚になったら、厚い夜着と代えることが出来るでしょうか? 夜着は十二月に出来ますが、ダラダララインは、今私の舌たらずな発音では大変言いにくくて、ダアダア、アインと聞えるそう・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・毛糸の寒中用のももひきジャケツは、今年御新調です。柔く軽いが、これまでのものより上等です。今栄さんが編んでいます。夜着はお気に入りましたか? 割合心持よい色の工合でしょう。 この間は田村俊子さん、重治さん、間宮さんたちと、稲ちゃんのとこ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ わしの母御はわしを育てるに心をお用いなされた、寒中の寒に堪ゆる事も暑さに堪ゆる事も又はせわしい仕事にたゆる事をお教えなされたのじゃ。 しかし、そしりをうけ、下げすみをうけた折にようこらえる術は教えて下さらなんだ。又その様な汚らわし・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・と誘うような気質であったから、尾世川の、どんな貧乏も一向苦にせず、寒中セルと褞袍で暮しながら額のあたりに貧の垢ではない微かな艶を失わない彼の生活ぶりと、どこかでうまが合うのであろう。 若きヴェルテルの悩みや名家選集をもって、藍子は二・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・奥さんは、寒中余り水に濡れては震えていたので肺炎を起して没した。幸雄はまったく孤独な者となったのを心のどこかで感じたらしく見えた。箪笥の中から茶箪笥の中まで異常な注意深さで管理した。台所まで口を出すので、石川は或るとき、「台所のことは女・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・不活溌な生活気分だ。寒中に雪も降らず、色だけ見事で結局は食べられない蜜柑が枝もたわわに実るという地方では、人の感情もそのように弾まないのか。土地の樹木の枝、葉など概して細々密接してついて居ると同じに、行き合う男の容貌、概して道具立てこまかく・・・ 宮本百合子 「湯ヶ島の数日」
出典:青空文庫