・・・ と思っていたら、果して、その講話のおわりにアナウンサアが、その、あいつの名前を、閣下という尊称を附して報告いたしました。老博士は、耳を洗いすすぎたい気持になりました。その、あいつというのは、博士と高等学校、大学、ともにともに、机を並べて勉・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・ この湖畔の呉王廟は、三国時代の呉の将軍甘寧を呉王と尊称し、之を水路の守護神としてあがめ祀っているもので、霊顕すこぶるあらたかの由、湖上往来の舟がこの廟前を過ぐる時には、舟子ども必ず礼拝し、廟の傍の林には数百の烏が棲息していて、舟を見つ・・・ 太宰治 「竹青」
・・・書の管理者などはどこでも学生には煙たがられると見えて、いつか同席したクナイペの席上における学生の卓上演説で冗談交じりにひどくこき下ろされていたが、当人は Sehrgemeiner Kerl などという尊称を捧げられても平気で一緒に騒いでいる・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・あの相模屋という大きな質屋と酒屋との間の長屋は、僕の家の長屋で、あの時分に玄関を作れるのは名主にだけは許されていたから、名主一名お玄関様という奇抜な尊称を父親はちょうだいしてさかんにいばっていたんだろう。 家は明治十四五年ごろまであった・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
・・・の感じた事を書いて行こうとして居ります。 可成種々あるような気も致します、が、先ず同性と云う点から、こちらの婦人に就いて私の思ったままを述べさせて戴きましょう。 厨川白村氏によって「女王」の尊称をたてまつられ、又この名にふさわしい権・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・とかなんとか云う尊称がたてまつられる。そんな人にかぎってその投書の一年とつづいた事がなく、その次からの文がきっと前よりも劣って居る。「天才のねうちが下ったナア」と思われる。 何故昔は男でも色のはでな模様のある着物を一般の人が着て居た・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫