・・・十返舎一九の『膝栗毛』も篇を重ねて行くに従い、滑稽の趣向も人まちがいや、夜這いが多くなり、遂に土瓶の中に垂れ流した小便を出がらしの茶とまちがえて飲むような事になる。戦後の演芸が下がかってくるのも是非がない。 浅草の劇場では以上述べたよう・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・Oは石段を上る前に、門前の稲田の縁に立って小便をした。自分も用心のため、すぐ彼の傍へ行って顰に倣った。それから三人前後して濡れた石を踏みながら典座寮と書いた懸札の眼につく庫裡から案内を乞うて座敷へ上った。 老師に会うのは約二十年ぶりであ・・・ 夏目漱石 「初秋の一日」
・・・この間も道であいつが小便をたれているところをうまくとっつかまえて連れて戻った。やっぱしもとの家というものは恋しいものかなあ。――何、僕の故家かね、君、軽蔑しては困るよ。僕はこれでも江戸っ子だよ。しかしだいぶ江戸っ子でも幅のきかない山の手だ、・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
・・・兄が要らないといえば弟も要らないという。兄が小便がしたいといえば弟も小便をしたいという。それは実にひどいものです。総て兄のいう通りをする。丁度その後から一歩一歩ついて歩いているようである。恐るべく驚くべく彼は模倣者である。 近頃読んだ本・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・ 糞、小便は、長さ五寸、幅二寸五分位の穴から、巌丈な花崗岩を透して、おかわに垂れる。 監獄で私達を保護するものは、私達を放り込んだ人間以外にはないんだ。そこの様子はトルコの宮廷以上だ。 私の入ってる間に、一人首を吊って死んだ。・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・お隣の華族様も最う大分地獄馴れて蚯蚓の小便の味も覚えられたであろう。淋しいのは少しも苦にならないけれど、人が来ないので世上の様子がさっぱり分らないには困る。友だちは何として居るかしらッ。小つまは勤めて居るなら最う善いかげんの婆さんになったろ・・・ 正岡子規 「墓」
・・・昨日の夕方、霧の中で、野馬がお前さんに小便をかけたろう。気の毒だったね。」「ありがとう。おかげで、そんな目には、あわなかったよ。」「アァハハハハ。アァハハハハハ。」みんな大笑いです。「ベゴさん。今日は。今度新らしい法律が出てね、・・・ 宮沢賢治 「気のいい火山弾」
・・・ 私は、その書翰集をよみとおす間もなく、再び流通のわるい空気の中に、汗と小便との匂いがつまっている格子の内に、追い下されたのであったが、なかなか感動は消えず、更に一つのことを思い起した。それはゴーリキイが、どうして今日の彼にまで発展する・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・長い時間腰をかけたっきりでいる――長い時間立ったぎりでいると、 また、仕事のひまがなくて長い間小便をがまんしていると――「子宮」は転位して婦人の不幸をもって来る。 だから、職業の性質と婦人の健康との関係を考えて、婦人のためには特・・・ 宮本百合子 「ソヴェト映画物語」
・・・立小便をしている風に見えぬ。姿はおぼろだが眼は往来に向って絶えず光っているのがわかるのであった。 それで気がついて左側を見ると、もう七分どおり大戸をおろした店のまわりなどまだらな光の裡に、ステッキをつき、浴衣がけで、走っている円タクを止・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
出典:青空文庫