・・・ 一 町なかの公園に道化方の出て勤める小屋があって、そこに妙な男がいた。名をツァウォツキイと云った。ツァウォツキイはえらい喧嘩坊で、誰をでも相手に喧嘩をする。人を打つ。どうかすると小刀で衝く。窃盗をする。詐偽をする。・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・数羽の鶏の群れが藁小屋を廻って、梨の木の下から一羽ずつ静に彼の方へ寄って来た。「好えチャボや。」と安次は呟いて鶏の群れを眺めていた。 お霜は遅れた一羽の鶏を片足で追いつつ大根を抱えて藁小屋の裏から現れた。「また来たんか?」「・・・ 横光利一 「南北」
・・・そこを散歩して、己は小さい丘の上に、樅の木で囲まれた低い小屋のあるのを発見した。木立が、何か秘密を掩い蔽すような工合に小屋に迫っている。木の枝を押し分けると、赤い窓帷を掛けた窓硝子が見える。 家の棟に烏が一羽止まっている。馴らしてあるも・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫