・・・ 炊事当番の少年少女が、太って大きい炊事がかりの小母さんの手伝いをしてアルミの鉢を洗っている。小母さんは、漏れ手で元気に働いている子供たちを示しながら、「どうです? ソヴェトのピオニェールは! 理屈を頭で知っているばかりじゃないでし・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・隣家の小母さんであるならば、鬼女もその娘に手をのばしはしなかったろう。母子関係の常套には新しい窓がひらかれる必要がある。 被害者 犯罪に顛落する復員軍人が多いことについて、復員省は上奏文を出し「聖上深く御憂慮」・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・というのを見ると風邪でもひいているのでしょう、のどを白い布でまき、縞の着物を着た半白の五十越したおばさんが、蒼白いけれどそれは晴れやかな若々しい様子で隣の、これもなかなかしゃんとした小母さんと話しています。やや乱れかかった白髪と、確かり大き・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・もうよっぽど前から起きて働いていた小母さんが、外が明るくなったのでフッと電燈を消した。 コツコツまだ人通りのない道の上を歩いて、長い棒をかついだ婦人点燈夫が街燈の灯を消して行く。 日は窓々をひろく照らすようになって、サア、家々の掃除・・・ 宮本百合子 「ソヴェト映画物語」
・・・オーリャが読み終ると、赤い布で白髪をつつみ、腕組をしたままじっと聞いていた六十八歳のアガーシャ小母さんがつよい声で云った。「見ていろ! 世界のプロレタリアはどうしたって勝たずにはいないんだ。わたし達は元この工場でどんな具合に搾られていた・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・すると思いがけず白い上被の小母さんが「赤い毛のワロージャ」に、 ――ワロージャ、お前ポケットに何いれてるの?ときいた。ワロージャのやつ! 目玉キョロキョロさせてミーチャや女の児の方を見ながら、 ――巻パンが入ってる。と云った・・・ 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
・・・ 大きい大きいニッケル湯沸しの横に愛嬌のいい小母さんが立って一杯三哥のお茶をのませ、菓子などを売る喫茶部は殷やかな話し声笑い声に満ちている。 体育室の設備のよさは、プロレタリア・スポーツの誇りだ。 医務室がある。 法律相談所・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ 炊事場の取締りをやっている肥った小母さんが自分を見て、「どうです? われわれの産院は?」 それから満足そうに笑いながらつけ足した。「御馳走を一つたべて見ませんか?」 コンクリートの廊下を戻って来ると、一つの室のドアが開・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・次に赤坂の堀と云う家の奥に、大小母が勤めていたので、そこへ手伝に往った。次に麻布の或る家に奉公した。次に本郷弓町の寄合衆本多帯刀の家来に、遠い親戚があるので、そこへ手伝に往った。こんな風に奉公先を取り替えて、天保六年の春からは御茶の水の寄合・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・あのね、小母さんはまだこれから寝なくちゃならないのよ。あちらへいってらっしゃいな。いい子ね。」 灸は婦人を見上げたまま少し顔を赧くして背を欄干につけた。「あの子、まだ起きないの?」「もう直ぐ起きますよ。起きたら遊んでやって下さい・・・ 横光利一 「赤い着物」
出典:青空文庫