・・・ 蘆の軸に、黒斑の皮を小袋に巻いたのを、握って離すと、スポイト仕掛けで、衝と水が迸る。 鰒は多し、また壮に膳に上す国で、魚市は言うにも及ばず、市内到る処の魚屋の店に、春となると、この怪い魚を鬻がない処はない。 が、おかしな売方、・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・時の移るも知らずに興じつつ波に追われたり波を追ったりして、各小袋に蛤は満ちた。よろこび勇んで四人はとある漁船のかげに一休みしたのであるが、思わぬ空の変わりようにてにわかに雨となった。四人は蝙蝠傘二本をよすがに船底に小さくなってしばらく雨やど・・・ 伊藤左千夫 「紅黄録」
・・・粉にしたコーヒーをさらし木綿の小袋にほんのひとつまみちょっぴり入れたのを熱い牛乳の中に浸して、漢方の風邪薬のように振り出し絞り出すのである。とにかくこの生まれて始めて味わったコーヒーの香味はすっかり田舎育ちの少年の私を心酔させてしまった。す・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・ 同じ店にあった紅の小袋にその鈴をいれて、お年玉とした。これは、今年のお祝いよ、歩めよ小馬、のお祝いよ。そう云ってわたした。 いろんな女のひとの生活をみていると、この頃では二十五六歳という年が、複雑な内容でその人たちの行く手に現われ・・・ 宮本百合子 「小鈴」
出典:青空文庫