・・・十二月二十八日 目が醒めると、隣に尺八を吹く人あり。少し悲観。部屋を、直ぐ横の六畳二つにして貰う。 実に、すばらしい天気。碧い空、日光を吸って居る暖かそうな錆金色の枯草山、その枯草まじりに、鮮やかに紅葉したまま散りもせぬ蔦類・・・ 宮本百合子 「湯ヶ島の数日」
・・・土曜から日曜にかけては、男の児が遊びに来た。尺八を吹く男の人も来たし、犬も来る。賑やかなのは一時で、然しじきもとの独り住みの静けさに戻る。ダリアの盛りの頃、私共はその若い女の人から一束の美しい花を貰った。夜にでもなれば、互に互の灯かげを眺め・・・ 宮本百合子 「蓮花図」
・・・早歌では、清阿、口阿。尺八では、増阿。いずれもその後に及ぶもののない無双の上手とされている。我々には理解のできない問題であるが、諸道の明匠が雲のごとく顕われていた応永、永享の時代を飾るに足る花なのであろう。 ところで、そういう時代の思想・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫