・・・酒不足の折柄、老生もこのごろは、この屋台店の生葡萄酒にて渇を医す事に致し居候。四月なり。落花紛々の陽春なり。屋台の裏にも山桜の大木三本有之、微風吹き来る度毎に、おびただしく花びらこぼれ飛び散り、落花繽紛として屋台の内部にまで吹き込み、意気さ・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・あのひと、あたしを女優にするんだと、ずいぶん意気込んでいるんだけれど、どんなものだろうねえ、数枝だって、あたしがいつまでも、ここで何もせずに居候していたら、やっぱり、気持が重いでしょう? また、あたしが女優になって、歴史的さんがそれで張り合・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・僕は二度も罹災して、とうとう、故郷の津軽の家の居候という事になり、毎日、浮かぬ気持で暮している。君は未だに帰還した様子も無い。帰還したら、きっと僕のところに、その知らせの手紙が君から来るだろうと思って待っているのだが、なんの音沙汰も無い。君・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・科学がキャピタリズムやミリタリズムやないしボルシェヴィズムの居候になっているうちは、まあ当分見込がなさそうに思われる。 満員電車にぶら下がっている人々の傍を自動車で通る人があるから世の中に社会主義などというものが出来るという人がある。一・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・あげくのはてが自分の心をおもちゃにしてクルリッともんどりうたしてそれを自分でおどろいてそのまんま冥府へにわかじたての居候となり下る。妙なものじゃ。第一の精霊 その様に覚ったことは云わぬものじゃよ。どこの御仁かわしゃ得知らんがあの精女の白・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・有って都合の悪いものと云えば誰でも知る居候、大家のならいこの御館にも男二人女二人のかかり人。 二人の男君は三代前の何とか彼とかの面倒なかかり合から、働くのもつらし、これ幸と一人前の大男が二人までのやっかいもの。 二人の女君は後室の妹・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・彼女が海の彼方のブルジョアの国に居候しながら、革命の悪口、ボルシェビキの悪口を云っている間に、ソヴェト権力は鎖をすてて立ったロシアのプロレタリア、農民、働く人民の政権として樹立された。 新しい燃ゆるような社会主義の生活が開始された。そろ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
出典:青空文庫