・・・ また、先頃フィリッピンのバシラン島附近で高麗鶯の新種を発見して博物学界に貢献した、博物採集を仕事としている山村八重子さんの自分の仕事に対する愛情は、すべての事情からいわゆる商売気は離れています。彼女には商売気を必要としない生活の好条件・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・という題で、『プラウダ』が社説として発表したジイドのソヴェト旅行記批判が、山村房次氏によって訳載された。 その文章は何月何日の『プラウダ』に出たものであったのか、執筆者の署名があったのか無かったのか、完訳であるのか抄訳であるのかそれ等の・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ ○今度の朝鮮人の陰謀は実に範囲広く、山村の郷里信州の小諸の方にも郡山にも、毒薬その他をもった鮮人が発見されたとのことだ。 九月二十四五日より大杉栄ほか二名が、甘粕大尉に殺された話やかましく新聞に現れた。福田戒厳令司令官が山・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・早春そこを通ったので雪解の河原、その河原に茂っている多分河楊だろう細かく春浅い枝をひろげた灌木、山又山とほんのり芽ぐみつつまだ冬枯れの密林が連った光景、そこへそのような屋根を点々と、如何にも山村浅春の趣が深かった。葉をふるい落した樹木の線の・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・ 蚊をあおぎながら乳をのませて居た母は、「どこだろうねえ、 山村さんかい。 随分にぎやかなんだねえ、 これじゃあ赤ちゃんも寝つかれまい。と云いながら、ワッワッとゆれる様な音を気にしだした。 わきで本を見な・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・また仙三、江沼、山村等の人物を描くことで、一般に転向者と言われている人々の各タイプを描こうとしたのであったろう。これ等を目的としたのであったらば作者は十分成功を納めているとは言い難い。作者は、極めて客観的に描き出すことで読者の心を打つべき残・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・その一年あまりの間、都会育ちの先生が、立ち居も不自由なほどの神経痛になやみながら、生まれて初めての山村の生活の日々を、「ちょうど目がさめると起きるような気持ちで」送られた。その記録がここにある。それはいわば最近二十年の間の日本の動乱期がその・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
出典:青空文庫