・・・……これでございますから、何の木曾の山猿なんか。しかし、念のために土地の女の風俗を見ようと、山王様御参詣は、その下心だったかとも存じられます。……ところを、桔梗ヶ池の、凄い、美しいお方のことをおききなすって、これが時々人目にも触れるというの・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ と突拍子な高調子で、譫言のように言ったが、「ようこそなあ――こんなものに……面も、からだも、山猿に火熨斗を掛けた女だと言われたが、髪の毛ばかり皆が賞めた。もう要らん。小春さん。あんた、油くさくて気の毒やが、これを切って、旦那さんに・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・ わざとこえをかえてしかつめらしくきくと若い女はたまらなそうに笑いこけながら、「マア殿さまハ、何を仰せあそばすかと思えば、私なんかはもうもうお山のおくのおく、山猿といっしょに産湯をつかったのでございますもの」 割合にはっきりした・・・ 宮本百合子 「錦木」
出典:青空文庫