・・・もうすこし不明瞭なのでは「かえるやら山陰伝う四十から」の次に「むねをからげる」があり、「だだくさ」の次に「いただく」があり、「いさぎよき」の次に「よき社」がありするのも同様である。こういう無意識の口移りは付け句には警戒されたのが三句目四句目・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・とある山陰の杉の木立が立っておるような陰気な所で其木立をひかえて一つの焼き場がある。焼き場というても一寸した石が立っておる位で別に何の仕掛けもない。唯薪が山のように積んである上へ棺を据えると穏坊は四方から其薪へ火をつける。勿論夜の事であるか・・・ 正岡子規 「死後」
・・・例えば帰る雁田毎の月の曇る夜に菜の花や月は東に日は西に春の夜や宵曙の其中に畑打や鳥さへ鳴かぬ山陰に時鳥平安城をすぢかひに蚊の声す忍冬の花散るたびに広庭の牡丹や天の一方に庵の月あるじを問へば芋掘りに狐火・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫