・・・を見つつ育ち、清澄山の山頂で、同じ日の出に向かって、彼の立宗開宣の題目「南無妙法蓮華経」を初めて唱えたのであった。彼は「われ日本の柱とならん」といった。「名のめでたきは日本第一なり、日は東より出でて西を照らす。天然の理、誰かこの理をやぶらん・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・と、それは、きっとその通りで、みじんも嘘のないことは、わかっているのだけれど、現在こんな烈しい腹痛を起しているのに、その腹痛に対しては、見て見ぬふりをして、ただ、さあさあ、もう少しのがまんだ、あの山の山頂まで行けば、しめたものだ、とただ、そ・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・かのアルプス山頂、旗焼くけむりの陰なる大敗将の沈黙を思うよ。 一噛の歯には、一噛の歯を。一杯のミルクには、一杯のミルク。「なんじを訴うる者とともに途に在るうちに、早く和解せよ。恐くは、訴うる者なんじを審判人にわたし、審判人は下役・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・ 窓際の籐椅子に腰かけて、正面に聳える六百山と霞沢山とが曇天の夕空の光に照らされて映し出した色彩の盛観に見惚れていた。山頂近く、紺青と紫とに染められた岩の割目を綴るわずかの紅葉はもう真紅に色づいているが、少し下がった水準ではまだようやく・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・大垣停車場から、伊吹山頂、海抜一三七七メートルの点までの距離が、ほとんどちょうど二十キロメートル、すなわちざっと五里である。それから計算してみると、大垣から見た山頂の仰角は、相当に大きく、たとえば、江の島から富士を見るよりは少し大きいくらい・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・その頂点に向かう視線が山頂への視線を越しそうで越さない。風が来ると噴水が乱れ、白樺が細かくそよぎ竹煮草が大きく揺れる。ともかくもここのながめは立体的である。 毎日少しずつ山を歩いていると足がだんだん軽くなる。はじめは両足を重い荷物のよう・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・ やっぱり浅間が爆発したのだろうと思ってすぐにホテルの西側の屋上露台へ出て浅間のほうをながめたがあいにく山頂には密雲のヴェールがひっかかっていて何も見えない。しかし山頂から視角にしてほぼ十度ぐらいから以上の空はよく晴れていたから、今に噴・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・そうして天気が悪くて相手の山頂三角点が見えなければ、幾日でもそれが見えるまで待っていなければならない。関東震災後の復旧測量では毛無山頂上で二十八日間がんばって天城山の頭を出すのを今か今かと待っていた人がある。古いレコードでは七十日というのさ・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・とにかくその七月いっぱいに私のした仕事は、一、北極熊剥製方をテラキ標本製作所に照会の件一、ヤークシャ山頂火山弾運搬費用見積の件一、植物標本褪色調査の件一、新番号札二千三百枚調製の件 などでした。 そして八月に・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・のであるから、作家はそれを念頭において書くものをやさしく書かねばいかん、変に凝った、分りにくいスタイルでやっと身を保っているような書き方をやっていたのではいけない、作家はこれまでのように特別な高い文学山頂にだけ止っていてはいけないといわれて・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
出典:青空文庫