・・・それでどうしたかというと、川辺の誰も知らないところへ行きまして、菜種を蒔いた。一ヵ年かかって菜種を五、六升も取った。それからその菜種を持っていって、油屋へ行って油と取換えてきまして、それからその油で本を見た。そうしたところがまた叱られた。「・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ 再び先の川辺へ出た。そして先ず自分の思いついた画題は水車、この水車はその以前鉛筆で書いたことがあるので、チョークの手始めに今一度これを写生してやろうと、堤を辿って上流の方へと、足を向けた。 水車は川向にあってその古めかしい処、木立・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・何峠から以西、何川辺までの、何町、何村、字何の何という処々の家の、種々の雑談に一つ新しい興味ある問題が加わった。愈々大津の息子はお梅さんを貰いに帰ったのだろう、甘く行けば後の高山の文さんと長谷川の息子が失望するだろう、何に田舎でこそお梅さん・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・亀井戸の金糸堀のあたりから木下川辺へかけて、水田と立木と茅屋とが趣をなしているぐあいは武蔵野の一領分である。ことに富士でわかる。富士を高く見せてあだかも我々が逗子の「あぶずり」で眺むるように見せるのはこの辺にかぎる。また筑波でわかる。筑波の・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・東京の小石川辺の景色だ。長屋の端の一軒だけ塞がっていてあとはみんな貸家の札が張ってある。塞がっているのが大家さんの内でその隣が我輩の新下宿、彼らのいわゆる新パラダイスである。這入らない先から聞しに劣る殺風景な家だと思ったが、這入って見るとな・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・夢の様な、歎く様な細い声に川辺にすわったまんま吹きならす。幕。 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・女達の着物はみんな薄色になって川辺には小供達がボートをうかべています。いつも行く森はまっくろいほどにしげってその中に美の女神の居る様な沼の事や丈高く自分の丈より高く生えている百合の事などを詩の人の頭にうかばせました。若い旅の詩人は大きい目を・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫