・・・ 彼那大きなものを持ち出し、此処でも之丈の事をしたのに、どうして家の者の目が覚めなかったのか、 どこかに禁厭がしてないかとか、ゆうべ誰かが干物を外へ出して置いたまんまだったのではないか。 斯うやって考えて見ると、どうしても三時頃・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・辛い鮭と干物とが有る時は良い方である。私共は毎日野菜で暮して居る。牛乳の有るのを幸、それで煮たりして少しは味の変ったものもたべて居るものの、魚のなまか、牛の焼いたのがたまらなく欲しい事がある。そう云う時に折よく東京から送って呉れる、魚の味噌・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・私にはたまたま名ばかりでなくて物が見られても、干物しか見られなかった。これが私のサフランを見た初である。 二三年前であった。汽車で上野に着いて、人力車を倩って団子坂へ帰る途中、東照宮の石壇の下から、薄暗い花園町に掛かる時、道端に筵を敷い・・・ 森鴎外 「サフラン」
・・・りくねッたさも悪徒らしい古木の洞穴には梟があの怖らしい両眼で月を睨みながら宿鳥を引き裂いて生血をぽたぽた…… 崖下にある一構えの第宅は郷士の住処と見え、よほど古びてはいるが、骨太く粧飾少く、夕顔の干物を衣物とした小柴垣がその周囲を取り巻・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫