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・・・ 理非曲直も弁えずに、途方もない夢ばかり見続けている、――そこが高平太の強い所じゃ。小松の内府なぞは利巧なだけに、天下を料理するとなれば、浄海入道より数段下じゃ。内府も始終病身じゃと云うが、平家一門のためを計れば、一日も早く死んだが好い。そ・・・
芥川竜之介
「俊寛」
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・・・これは大内平太とて元は北畠の手の者じゃ。秩父刀禰とはかねてより陣中でしたしゅうした甲斐に、申し残されたことがあって……」「申し残された」の一言が母の胸には釘であった。「おおいかに新田の君は愛でとう鎌倉に入りなされたか」「まだ、さ・・・
山田美妙
「武蔵野」