・・・次へ、それから、引続いて――一品料理の天幕張の中などは、居合わせた、客交じりに、わはわはと笑を揺る。年内の御重宝九星売が、恵方の方へ突伏して、けたけたと堪らなそうに噴飯したれば、苦虫と呼ばれた歯磨屋が、うンふンと鼻で笑う。声が一所で、同音に・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ ところが、ある年の暮、いよいよ押し詰まって来たのにかかわらず、蔵元町人の平野屋ではなんのかんのと言って、一向に用達してくれない。年内に江戸表へ送金せねば、家中一同年も越せぬというありさま故、満右衛門はほとほと困って、平野屋の手代へ、品・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・「貴兄の短篇集のほうは、年内に、少しでも、校正刷お目にかけることができるだろうと存じます。貴兄の御厚意身に沁みて感佩しています。或いは御厚意裏切ること無いかと案じています。では、取急ぎ要用のみ。前略、後略のまま。大森書房内、高折茂。太宰・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・もしかしたら年内にもう一遍眼底をみてもらうかも知れません。本は本屋から着きましたろうか。 毛布のことわかりました。毛布とどてらと一緒にお送りしたいものだと思っています。 もうあれから一年たち、今年が二十日ばかりで終るとは何ということ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・べは、夜中になってから熱中しはじめて、いつしか夜があけ、くたびれて動けなかったので私は寝ていて、栄さんやいねちゃんが出かけ、その人々は中野の方へ用事で行き、かえりに栄さんがよって、とてもひどい順番で、年内は無駄だろうと知らせてくれました。明・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・文芸時評的なものを年内に二つかきます。 本当にこの手紙は、去年とやいわん、今年とやいわん。 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫