・・・いつか私はびしょ濡れになりながら、広場のあちこちを駆けずり廻り、苦しいまでに焦燥を感じた。Sはどこにいるのだろう。私は人一倍背が高く、つまりノッポの一徳で、見通しの利く方なのだが、沢山の傘に邪魔されて、容易にSの姿が見つけられなかった。・・・ 織田作之助 「面会」
・・・ 二 隣部落の寺の広場へ、田舎廻りの角力が来た。子供達は皆んな連れだって見に行った。藤二も行きたがった。しかし、丁度稲刈りの最中だった。のみならず、牛部屋では、鞍をかけられた牛が、粉ひき臼をまわして、くるくる、真中の・・・ 黒島伝治 「二銭銅貨」
・・・あるいは、彼が知らないうちに子供が嬉しがってどっかへ持って行ったのかもしれない、彼女は、子供達が寺の広場で遊んでいるのを呼びに行った。「あの人、もう知ってるんだ。知ってるんだ?」歩きながら、思わずこんな言葉が呟かれた。そして彼女はぎょっ・・・ 黒島伝治 「窃む女」
・・・気のどくなのは、手近の小さな広場をたよって、坂本、浅草、両国なぞのような千坪二千坪ばかりの小公園なぞへにげこんだ人たちです。そんな人は、ぎっしりつまったなり出るにも出られず、みんな一しょにむし焼きにあってしまいました。 そんなわけで、な・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ ぶくぶくはこう言って、わざわざ町のまん中の大きな広場まで歩いていきました。町中のものは大山のような大きな大きな大男が来たのでびっくりして、わいわい言いながら、みんなでぞろぞろ後へついていきました。ぶくぶくは広場へ来ると、「さあ、み・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・丁度、どの町にも、人々が皆行って休息出来る広場がなくてはならないように、一つの村には、二人か三人、誰にでも相手をしていられる暇人が必要です。そう云う人さえいれば、私共が暇で友達でも欲しくなれば、雑作もなく得られます。 プラタプの何よりの・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・やがてバスは駅前の広場に止り、ぞろぞろ人が降りて、と見ると佐吉さんが白浴衣着てすまして降りました。私は、唸るほどほっとしました。 佐吉さんが来たので、助かりました。その夜は佐吉さんの案内で、三島からハイヤーで三十分、古奈温泉に行きました・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・心労多かったことであったようだが、それより、三年たって、今日、精も根も使いはたして、洋服の中に腐りかけた泥がいっぱいだぶだぶたまって、ああ、夕立よ、ざっと降れ、銀座のまんなかであろうと、二重橋ちかきお広場であろうと、ごめん蒙って素裸になり、・・・ 太宰治 「喝采」
・・・ 三 世界の屋根 この映画で自分のもっとも美しいと思った場面はおおぜいの白衣の回教徒がラマダンの断食月に寺院の広場に集まって礼拝する光景である。だがせっかくのこのおもしろい場面をつまらぬこしらえものの活劇で打ちこわし・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・池が消えて夜の街の広場が現われる。空に一本水平に綱が張ってあるその上を玩具の馬のようなものが渡って行く。かちゃんと落っこってバラバラに毀れた。それをまた組立てて綱渡りをさせるのが自分の責任だがどうしたらよいかと思い惑っていると、周囲のラウベ・・・ 寺田寅彦 「御返事(石原純君へ)」
出典:青空文庫