・・・ 約束はしたが、こんなに雨が降っちゃ奴も出て来ないだろうと、その人は家にいて、しょうことなしの書見などしていると、昼近くなった時分に吉はやって来た。庭口からまわらせる。 「どうも旦那、お出になるかならないかあやふやだったけれども、あ・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・ 庭口から直に縁側の日当りに腰を卸して五分ばかりの茶談の後、自分を促して先輩等は立出でたのであった。自分の村人は自分に遇うと、興がる眼をもって一行を見て笑いながら挨拶した。自分は何となく少しテレた。けれども先輩達は長閑気に元気に溌溂と笑・・・ 幸田露伴 「野道」
・・・それを漬ける手伝いしていると、水道の栓から滝のように迸り出る水が流し許に溢れて、庭口の方まで流れて行った。おげんは冷たい水に手を浸して、じゃぶじゃぶとかき廻していた。 看護婦は驚いたように来て見て、大急ぎで水道の栓を止めた。「小山さ・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・お島が庭口へ下りて戸を開けた時は、広岡学士と体操教師の二人が暗い屋外から舞い込むようにやって来た。 高瀬は洋燈を上り端のところへ運んだ。馬場裏を一つ驚かしてくれようと言ったような学士等の紅い磊落な顔がその灯に映った。二人とも脚絆に草履掛・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
出典:青空文庫