・・・ それと同時にまた一歩進んで適当な雑音の插入がいっそうこの沈黙の強度を強めることもわかって来た。一鳥の鳴き声で山がさらに幽静になるという昔の東洋詩人の発見した事が映画家によって新たにもう一度発見され応用されるようになった。舗道をあるくル・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・しかしそれよりも大切なことは、映画の写し出す視覚的影像の喚起する実感の強度が、文字の描き出す心像のそれに比較して著しく強いという事実がこの差別を決定する重要な因子になるのではないかと思われる。 忠犬の死を「読む」だけならば、美しい感傷を・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ いちばん安全な方法はやはり野外でたくさんの観測を繰り返し、おのおのの場合の風向風速、太陽の高度方位、日照の強度、その他あらゆる気象要素を観測記録し、それに各場合の地形的環境も参考した上で、統計的分析法を使用して、各要素固有の効果を抽出・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・この方面の研究者にとっては一つ一つの地震は単に一つ一つの算盤玉のようなものである、たとえ場合によっては地震の強度を分類する事はあっても、結局は赤玉と黒玉とを区別するようなものである。第二には地震計測の方面がある。この方面の専攻者にとっては、・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・破壊がただ一回に終らず、数回の段階的変化によるとすれば、これらの推移中に歪みの変化は複雑に起り、場合によりては毎回地震の強度は微弱なる事もあるべく、また時にはその中に強震を生ずる事もあるべし。かくのごとき差別が偶然的局部的の異同に支配さるる・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ それはとにかく、年を取るに従っていろいろな毛ぎらいがだんだんにその強度を減じてくることは事実である。そうして同時に好きなものへの欲望も減少し、結局自分の中の「詩の世界」の色彩があせてくることもたしかである。「毛ぎらい」と「詩」と「・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・浅間観測所の水上理学士に聞いたところでは、この日の爆発は四月二十日の大爆発以来起こった多数の小爆発の中でその強度の等級にしてまず十番目くらいのものだそうである。そのくらいの小爆発であったせいでもあろうが、自分のこの現象に対する感じはむしろ単・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・が重大で誠意が熱烈で従って緊張が強度であればあるほどに、それを無事に過ごしたあとの長閑さもまた一入でわれわれの想像出来ないものがあるであろうと思いながら、夕刊第二頁をあけると、そこには、教育界の腐敗、校長の涜職事件や東京市会と某会社をめぐる・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・非常な強度で降っていると思うと、まるで断ち切ったようにぱたりと止む、そうかと思うとまた急に降り出す実に珍しい断続的な降り方であった。雑誌『文化生活』への原稿「石油ランプ」を書き上げた。雨が収まったので上野二科会展招待日の見物に行く。会場に入・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・それは譬えて云わば、無限に向かって進んで行く光の「強度」のようなものではあるまいか。無限の空間に運動している物の「運動量」のようなものではあるまいか。 こういう立場から見た時にセザンヌやゴーホの価値が私には始めて明らかになると同時に、支・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
出典:青空文庫