・・・突然強風が吹起こって家を揺るがし雨戸を震わすかと思うと、それが急にまるで嘘をいったように止んでただ沛然たる雨声が耳に沁みる。また五分くらいすると不意に思い出したように一陣の風がどうっと吹きつけてしばらくは家鳴り震動する、またぴたりと止む、す・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・いかにも軽そうで強風に吹飛ばされそうな感じがする。永久性と落着きのないのは、この辺の天然の反対である。浅虫温泉は車窓から見ただけで卒業することにした。 夕方連絡船に乗る。三千四百トン余のタービン船で、なかなか綺麗で堂々としている。青森市・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・何をさせても器用であって、彼の作った紙鳶は風の弱い時でも実によく揚りそうして強風にも安定であった。一緒に公園の茂みの中にわなをかけに行っても彼のかけた係蹄にはきっとつぐみや鶸鳥が引掛かるが、自分のにはちっともかからなかった。鰻釣りや小海老釣・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・ また一例を挙げると、三月十六日パレスタインで強風が砂塵を立てているに乗じてトルコの駱駝隊を襲撃し全滅させたという記事もある。その他各戦線にわたって天候のために利を得また損害を受けた実例は枚挙に暇ないほどある。ことに飛行隊の活動などは著・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・これは明らかに強風のために途上の木竹片あるいは砂粒のごときものが高速度で衝突するために皮膚が截断されるのである。旋風内の最高風速はよくはわからないが毎秒七八十メートルを越える事も珍しくはないらしい。弾丸の速度に比べれば問題になら・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・三月頃まで家を揺って強風が吹きまくるので、瓦屋根には出来ない。それでどの家も細かく葺いた木端屋根なのが、粗く而も優しい新緑の下で却って似合うのだ。裏通りなど歩くと、その木端屋根の上に、大きなごろた石を載せた家々もある。木曾を汽車で通ると、木・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
出典:青空文庫