・・・せっかくだんだんと彫上げて行って、も少しで仕上になるという時、木の事だから木理がある、その木理のところへ小刀の力が加わる。木理によって、薄いところはホロリと欠けぬとは定まらぬ。たとえば矮鶏の尾羽の端が三分五分欠けたら何となる、鶏冠の蜂の二番・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・一方、漢文学との融合に立つ日本の伝統的文人気質というものは、硯友社出身で江戸っ子である幸田露伴の今日をいかなる内容に彫り上げているであろうか。鴎外の晩年とその伝記文学とをいかに彩ったか。漱石が彼の最大のリアリズムで「明暗」を書きつづけつつ、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ という風な英雄像に彫り上げられた一塊の石にしかすぎぬものが、余り市民の崇敬を受けてその栄耀に傲慢となり、もとは一つ石の塊であった台座の石ころたちと抗争しつつ、遂に自身の地位に幻滅してこっぱみじんに砕けてゆく物語は、平静に、諷刺満々と語られ・・・ 宮本百合子 「春桃」
出典:青空文庫