・・・ 段の上にすッくと立って、名家の彫像のごとく、目まじろきもしないで、一場の光景を見詰めていた黒き衣、白き面、清せいく鶴に似たる判事は、衝と下りて、ずッと寄って、お米の枕頭に座を占めた。 威厳犯すべからざるものある小山の姿を、しょぼけ・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・、なるほど加藤男の彫像に題するには何よりの題目だろう、……男爵は例のごとくそのポケットから幾多の新聞の号外を取り出して、「号外と僕に題するにおいて何かあらんだ。ねえ、中倉さん、ぜひ、その題で僕を、一ツ作ってもらいたい。……こんなふうに読・・・ 国木田独歩 「号外」
制服の処女 評判の映画「制服の処女」を一見した。最初に、どこかの柱廊前に並んだ、ものはなんだかわからないが、何かしら勇ましくたくましい男性的彫像などが現われ、それから男性的なラッパの音に導かれて兵隊の行列が・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・はなるほどどうしても血の通っている人間とは思われなくて、金属の彫像が動いているとしか思われない。あんなものを全身に塗っては健康によくないであろうと思うとあまり好い気持はしなかった。塗料が舞台の板に附くかと思って気をつけて二階から見ていたがそ・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・その建物の正面の屋根の上に一組の彫像のようなものが立っている。中央に何かしら盾のようなものがあってその両脇に男と女の立像がある。 これはたぶん商工業の繁昌を象徴する、例えば西洋の恵比須大黒とでも云ったような神様の像だろうと想像していたが・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・大理石の浮彫のその彫像は、五月の若葉のかげにまことに印象深かった。 モスクワの街々にプーシュキンやオストロフスキー、グリボエードフなど文学者の記念像が立っていることは、ひろく知られている。日本の、どの街に、どんな音楽家の像が立てられてい・・・ 宮本百合子 「行為の価値」
・・・しかもそれを知ったのは、彼女がブレークの見るソーニャとは異なったソーニャの彫像の最後の仕上げをしている時であった。彼女の手にあるのはソーニャの体である。どうしてそれの仕上げをつづけていられよう。 しかし、このことでは仕事を完成しようとす・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・という小さい彫像があった。マイヨール独特の親しみぶかいふっくらした裸婦が足にささった小さなとげをとろうとしているところである。その彫像が久しぶりで訪ねた鷺の宮の家のたんすの上に飾られていた。ああここに来ていると思ってながめながら、座布団の上・・・ 宮本百合子 「さしえ」
・・・ 此等の女性最高のシンボルである彫像は、一体何で出来て居りますか、そしてどんな色彩をほどこされて居りますか? 彼女等は決して、一槌の鎚でみじんになる大理石では作られて居りません。 時間と云うものに、極力抵抗した硬金属で作られて居・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫