・・・弥陀を契ひに彼の世まで……結びし縁の数珠の緒を」という一ふしがある。 しかしすべての結合がこういった純真な悲劇で終わるとはもとより限らない。ある者はやむなく、ある者は苦々しく、またある者は人生の知恵から別れなければならないのである。有名・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・「国に貸したものがあるさかい何の彼の世話やいてもろうとる、あの役場の馬場はんと一緒になって、幾分なりと入れさせる様にすれば、それから裂いで廻してやろ云うてなはるんや。「そいならあの新田の山岸はんの事ったっしゃろ。 あそこの旦はん・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・旅をしなれない女達は彼の世にでも行くように思って歌をやったりとったり笑ったり泣いたりして居る。車簾の中からそのそわそわした様子を見て居た光君は自分の事でないように落ついた心持であの家に行ってからの楽しさを思って居た。「さあもういいでしょ・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ 口振りでは、彼の世に、地獄と極楽の有る事を信じて居るらしい。一体、村の風で非常に信心深い村もあるが此村はさほどでもなく、他人の家へ来て仏様の話をするのは此の婆さん位なものである。後生願いの故か行儀は良い。働き者でもあるから祖母は好いて・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫