・・・――で、赤鼻は、章魚とも河童ともつかぬ御難なのだから、待遇も態度も、河原の砂から拾って来たような体であったが、実は前妻のその狂女がもうけた、実子で、しかも長男で、この生れたて変なのが、やや育ってからも変なため、それを気にして気が狂った、御新・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・ 勿論、ここへお誓が、天女の装で、雲に白足袋で出て来るような待遇では決してない。 その愚劣さを憐んで、この分野の客星たちは、他より早く、輝いて顕われる。輝くばかりで、やがて他の大一座が酒池肉林となっても、ここばかりは、畳に蕨が生えそ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・この待遇のために、私は、縁を座敷へ進まなければならなかった。「麁茶を一つ献じましょう。何事も御覧の通りの侘住居で。……あの、茶道具を、これへな。」 と言うと、次の間の――崖の草のすぐ覗く――竹簀子の濡縁に、むこうむきに端居して……い・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・ とちやほや、貴公子に対する待遇。服装もお聞きの通り、それさえ、汗に染み、埃に塗れた、草鞋穿の旅人には、過ぎた扱いをいたしまする。この温泉場は、泊からわずか四五里の違いで、雪が二三尺も深いのでありまして、冬向は一切浴客はありませんで、野・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・どうしたって来たから仕方なしという待遇としか思われない。来ねばよかったな、こりゃ飛だ目に遭ったもんだ。予は思わず歎息が出た。 岡村もおかしいじゃないか、訪問するからと云うてやった時彼は懇に返事をよこして、楽しんで待ってる。君の好きな古器・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・椿岳が小林姓を名乗ったのは名聞好きから士族の廃家の株を買って再興したので、小林城三と名乗って別戸してからも多くは淡島屋に起臥して依然主人として待遇されていたので、小林城三でもありまた淡島屋でもあったのだ。 尤もその頃は武家ですらが蓄妾を・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・るが、此の過去の事実を永遠に文人に強いて文学の労力に対しては相当の報賞を与うるを拒み、文人自らが『我は米塩の為め書かず』というは猶お可なれども、社会が往々『大文学はパンの為めに作られず』と称して文人の待遇を等閑視するは頗る不当の言である。・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・大阪朝日の待遇には余り平らかでなかったが、東京の編輯局には毎日あるいは隔日に出掛けて、海外電報や戦地の通信を瞬時も早く読むのを楽みとしていた。「砲声聞ゆ」という電報が朝の新聞に見え、いよいよ海戦が初まったとか、あるいはこれから初まるとか・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・「武器を取扱い武器を所有することを学ぼうと努力しない被抑圧階級はただ奴隷的待遇に甘んじていなければならぬであろう。吾々は、ブルジョア的平和主義者や、日和見主義者に変ることなく、吾々が階級社会に住んでいること、階級闘争と支配階級の権力の打倒と・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・建築半ばなれども室広く器物清くして待遇あしからず、いと心地よし。 二十九日、市中を散歩するにわずか二年余見ざりしうちに、著しく家列びもよく道路も美しくなり、大町末広町なんどおさおさ東京にも劣るべからず。公園のみは寒気強きところなれば樹木・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
出典:青空文庫