・・・な緑色の群葉に飾られた樹木は、光線の工合によって、細密な樹皮の凹凸を、さながら活動する群集のように見せながら、影と陰との錯綜、直線と曲線との微妙な縺れ合いに、ただ、彼等のみがもつ静粛な、けれどもどんな律動をも包蔵した力の調和を示している。・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・今の私の心持には、此の散文も詩に近いような思いの律動を以て浮んで来るのである。 魂が洗練されない事は恐ろしい。人にも、自分にも沢山の見える見えない悲劇を与える。自分の為に或る幾つかの魂が苦しみ、歎き、沈黙の忍従に頭垂れていても、知ら・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・ 太古の祖先等は、出生と死――発生と更新の律動を大きな宇宙の波動と感じて生活していたに違いありません。今の私共のように外面的にこせこせと、一年二年など、数えあげていたのではないでしょう。生れ出た人間は、太陽を浴び、雨に濡れ、朝に働き夜に・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫