・・・ 巳の時の夫人には、後日の引見を懇請して、二人は深く礼した。 そのまま、沼津に向って、車は白鱗青蛇の背を馳せた。大正十五年十月 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・れ八田は警官として、社会より荷える負債を消却せんがため、あくまでその死せんことを、むしろ殺さんことを欲しつつありし悪魔を救わんとして、氷点の冷、水凍る夜半に泳ぎを知らざる身の、生命とともに愛を棄てぬ。後日社会は一般に八田巡査を仁なりと称せり・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・と直ぐ定って、「ドウゾ復たお閑の時御ユックリとお遊びにいらしって下さい」と後日の再訪を求めて打切られるから、勢い即時に暇乞いせざるを得なくなった。随って会えば万更路人のように扱われもしなかったが、親しく口を利いた正味の時間は前後合して二、三・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・「あす、あさって、明々後日」と女は指を折って、「やのあさってに決まったの。しかしね、わたしは今になって、また気が迷って来たのよ」と言いつつ首をたれていたが、そっと袖で目をぬぐった様子。その間に徳二郎は手酌で酒をグイグイあおっていた。・・・ 国木田独歩 「少年の悲哀」
・・・む雛さま事罪のない遊びと歌川の内儀からが評判したりしがある夜会話の欠乏から容赦のない欠伸防ぎにお前と一番の仲よしはと俊雄が出した即題をわたしより歳一つ上のお夏呼んでやってと小春の口から説き勧めた答案が後日の崇り今し方明いて参りましたと着更え・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・こないだのガリヴァ後日物語は、少し陰惨すぎた。僕は、このごろまた、ブランドを読み返しているのだが、どうも肩が凝る。むずかしすぎる。」率直に白状してしまった。「僕にやらせて下さい。僕に、」ろくろく考えもせず、すぐに大声あげて名乗り出たのは・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・そうして後日、高い誇りを以て、わが見たところを誤またず描写しました。以下は、その原文であります。流石に、古今の名描写であります。背後の男の、貪婪な観察の眼をお忘れなさらぬようにして、ゆっくり読んでみて下さい。 女学生が最初に打った。自分・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・山岸さんも、三田君のアッツ玉砕は、あの日の新聞ではじめて知った様子で、自分は三田君の遺稿を整理して出版する計画を持っているが、それに就いて後日いろいろ相談したい、という意味の御返事であった。遺稿集の題は「北極星」としたい気持です、小生は三田・・・ 太宰治 「散華」
・・・ 後日談は無い。 太宰治 「誰」
・・・それから、後日、このどろぼうが再び悪事を試み、そのとき捕えられて、牢へいれられても、私をうらむことはないであろう。私は、このどろぼうの風采に就いては、なんにも知らないということになっているのであるから、まさか、私がかれの訴人の一人である、な・・・ 太宰治 「春の盗賊」
出典:青空文庫