・・・ K中尉は額の汗を拭きながら、せめては風にでも吹かれるために後部甲板のハッチを登って行った。すると十二吋の砲塔の前に綺麗に顔を剃った甲板士官が一人両手を後ろに組んだまま、ぶらぶら甲板を歩いていた。そのまた前には下士が一人頬骨の高い顔を半・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・羽根がむらさきのような黒でお腹が白で、のどの所に赤い首巻きをしておとう様のおめしになる燕尾服の後部みたような、尾のある雀よりよほど大きな鳥が目まぐるしいほど活発に飛び回っています。このお話はその燕のお話です。 燕のたくさん住んでいるのは・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・西洋人のおおぜい乗った自用車らしいのが十字路を横から飛び出してわれわれのバスの後部にぶつかったのであった。この西洋人の車は一方の泥よけがつぶれただけですみ、われわれのバスは横腹が少しへこんでペイントがはがれただけで助かった。肥った赤ら顔の快・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・ 矢来下行き電車に乗って、理研前で止めてもらおうとしたが、後部入り口の車掌が切符切りに忙しくてなかなか信号ベルのひもを引いてくれない。やっと一度引くには引いたが、運転手は聞こえないと見えて停車しないでとうとう通り過ぎて行った。早く止めて・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・又犬の胃液の分泌や何かの工合を見るには犬の胸を切って胃の後部を露出して幽門の所を腸と離してゴム管に結ぶそして食物をやる、どうです犬は食べると思いますか食べないと思いますか。あっ、どうかしましたか。」 実際どうかしたのでした。あんまり話が・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 停車したとき出て見たら、後部でもう一つの窓がやられている。そこのは石が小さかったと見えて空気銃の玉でもとび込んだように小さい穴がポツリとあいてヒビが入ってるだけである。こっちのは滅茶滅茶である。 子供はつかまったそうだ。親がえらい・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・(モスクワの電車は、乗る時はきっと後部からだ。すぐ女車掌が切符の束をもってドアのわきに立ってる。乗る。直ぐ八哥 ところで、サリヤンカの手前で電車を降りて、先へ先へと行くが、ちと工合が変だ。左へ曲る通りなんぞない。 塀の修繕をやっ・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・ 花房は佐藤にガアゼを持って来させて、両手の拇指を厚く巻いて、それを口に挿し入れて、下顎を左右二箇所で押えたと思うと、後部を下へぐっと押し下げた。手を緩めると、顎は見事に嵌まってしまった。 二十の涎繰りは、今まで腮を押えていた手拭で・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
出典:青空文庫