・・・ 臓器から製した薬剤の効果がその中に含有するきわめて微量な金属のためであって、その効果はその薬を焼いて食わせても変わらないらしいという説がある。しかし、それかと言ってその金属の粉をなめたのでは何もならない。ここに未知の大きな世界の暗示が・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ こんな微量な降灰で空も別に暗いというほどでもないのであるが、しかしいつもの雨ではなくて灰が降っているのだという意識が、周囲の見慣れた景色を一種不思議な淒涼の雰囲気で色どるように思われた。宿屋も別荘もしんとして静まり返っているような気が・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・もっとも、人間にでもきわめて微量な金属が非常に必要なものであるということは、近頃だんだんに分かりかけて来ているようではあるが、しかしそれは食物全体に対して10のマイナス何乗というような微少な量である。この虫のように自分の体重の何倍もある金属・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・ペンに働く力はこれに止まらぬ。ペンに微量の荷電があれば、あるいは自身にはなくても他に荷電体があれば、その感応によって周囲の物との間に引斥力が起る。また地球磁場等の影響はこれに偶力を及ぼす事になる。その磁場は諸天体にも感応し反対に諸天体の磁場・・・ 寺田寅彦 「方則について」
出典:青空文庫