・・・ その心持を誠意のこもった現実の力として表現しようとするとき私たちは、一つの救国運動として故国に対する人民の愛と必要に立つ統一的動きを肯定する以外に、どんな道を見出せるだろうか。雄々しいフランスの婦人たちは、フランスが歴史の波瀾を凌いで・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ そこで木村はその挨拶をする人は、どんな心持でいるだろうかと推察して見る。先ず小説なぞを書くものは変人だとは確かに思っている。変人と思うと同時に、気の毒な人だと感じて、protg にしてくれるという風である。それが挨拶をする表情に見えて・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ところがその心持を女房に知らせたくないので、女房をどなり附けた。「あたりめえよ。銭がありゃあ皆手めえが無駄遣いをしてしまうのだ。ずべら女めが。」 小さい女房はツァウォツキイの顔をじっと見ていたが、目のうちに涙が涌いて来た。 ツァ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・「心持の好さそうな住まいだね。」「ええ。」「冬になってからは、誰が煮炊をするのだね。」「わたしが自分で遣ります。」こう云って、エルリングは左の方を指さした。そこは龕のように出張っていて、その中に竈や鍋釜が置いてあった。「・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・どうも大勢の人が段々自分の身に近寄って来はしないかというような心持になる。闇が具体的になって来るような心持になる。そこで慌ただしげにマッチを一本摩った。そして自分の周囲に広い黒い空虚のあるのを見てほっと溜息を衝いた。その明りが消えると、また・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・どうかその心持をと思って物語ぶりに書綴って見ましたが、元より小説などいうべきものではありません。 あなた僕の履歴を話せって仰るの? 話しますとも、直き話せっちまいますよ。だって十四にしかならないんですから。別段大した悦も苦労もし・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・すべての人をこういう融け合った心持ちで抱きたい、抱かなければすまない、と思いました。私は自分に近い人々を一人一人全身の愛で思い浮かべ、その幸福を真底から祈り、そうしてその幸福のためにありたけの力を尽くそうと誓いました。やがて私の心はだんだん・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫