・・・ 主人はすぐに快諾しました。そうしてその庁堂の素壁へ、一幀の画幅を懸けさせました。「これがお望みの秋山図です」 煙客翁はその画を一目見ると、思わず驚嘆の声を洩らしました。 画は青緑の設色です。渓の水が委蛇と流れたところに、村・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・ また夏目さんは他人に頼まれたことを好く快諾する人だったと思う。随分いやな頼まれごとでも快く承諾されたのは一再でない。或る時などは、私は万年筆のことを書いて下さいと頼んだ。若い元気の好い文学者へでも、こんな事を頼もうものなら、それこそム・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
・・・と云う言葉で快諾しません。ロザリーは、苦しんでいた時なので、良人のその注意を意味深く解しましたが、彼女の明晰な頭脳は、自分の感情で物を歪めて見ることは免れました。良人の言葉は本当でした。二人の大きい方の子供達は、確によそのその年の子供のよう・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
出典:青空文庫