・・・彼女は細い路を辿りながら、「とうとう私の念力が届いた。東京はもう見渡す限り、人気のない森に変っている。きっと今に金さんにも、遇う事が出来るのに違いない。」――そんな事を思い続けていた。するとしばらく歩いている内に、大砲の音や小銃の音が、どこ・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・ 三 女の念力などいうこと、昔よりいってる事であるが、そういうことも全くないものとはいわれんようである。 おとよは省作と自分と二人の境遇を、つくづくと考えた上に所詮余儀ないものと諦め、省作を手離して深田へ養子に・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・思う念力、岩をもとおす。私は、もはや老齢で、すでに手おくれかも知れぬが、いや、しかし私だって、――(口を噤 二 このたびの黄村先生の、武術に就いての座談は、私の心にも深くしみるものがあった。男はやっぱり最後は、腕力に・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・かく完全な模型を標榜して、それに達し得る念力をもって修養の功を積むべく余儀なくされたのが昔の徳育であります。もう少し細かく申すはずですが、略してまずそのくらいにして次に移ります。 さてこういう風の倫理観や徳育がどんな影響を個人に与えどん・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
出典:青空文庫