・・・日本の女優だと云って、或時忽然ヨオロッパの都会に現れた。そんな女優が日本にいたかどうだか、日本人には知ったものはない。久保田も勿論知らないのである。しかもそれが別品でない。お三どんのようだと云っては、可哀そうであろう。格別荒い為事をしたこと・・・ 森鴎外 「花子」
・・・ この時ツァウォツキイが昔持っていて、浄火の中に十六年いたうちに、ほとんど消滅した、あらゆる悪い性質が忽然今一度かっと燃え立った。人を怨み世を怨む抑鬱不平の念が潮のように涌いて来た。 今娘が戸の握りを握って、永遠に別れて帰ろうとする・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫