・・・三二年に国際的決定を見た日本の半封建社会は、その社会に即する半封建の思惟力と文学のよわい脚との上に、プロレタリア文学運動もろとも社会主義的リアリズムという、未来にわたって展望の長い、興味ふかい国際的な文学課題までも、崩れへたばらせてしまうこ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・絵にかいたらば妖怪のような理性の逆立ちした思惟や、勇気の欠けていることをおおいかくすための詭弁や、――それは人間の愚劣さをあらわすものとしてわたしたちの周囲にあふれている。解放したい「自我」を詭弁の足かせでしばりつけることは、あまり悲しいこ・・・ 宮本百合子 「自我の足かせ」
・・・その社会的共感の基礎として集団的人間が予想され、今日のわれわれの合理性の声として、人間性を内容づける階級性も、当然思惟の領域に入っているのであるが、それを性急に従来の定形に準じて方向づけてしまっても、観念上の満足にとどまって、現代ヒューマニ・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・駿介に還る田舎を設定しなければこの小説全篇が成り立たないことや、そのような形で簡単に思惟と行為とを対立させて、云わば仮定から一つの実験を展開させているところは、文学作品としての被いがたい弱さであると思わざるを得ない。理想を持とうとしているの・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・彼女は、新カント派と多くの論戦を交えたが、弁証法を軽視し、その思惟が機械的だったことは、結局道徳律の問題において彼女を敵の陣営――彼女が一生涯それらと闘ったその敵の陣営に導いた。」 大体思索し得る女流の間に道徳家が多いのは何故であろうか・・・ 宮本百合子 「婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?」
・・・云々と続く林の思惟の発展を批判するにあたり、亀井は今はただしく理解したという林のいう具体的な内容の検討をぬきに「この言葉の限りでは彼のいうことは正しいのである」と先ず断定している。然し、林が「正しく」プロレタリア文学を理解したと思っていたそ・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・ この二つの論文は、執筆に当ってあらかじめ打合わせがされたのかどうかはもとより知らないが、思惟の傾向の本質では全く一体二面であるし、或る意味の組織的生産の印象を与えている。二人の筆者は、マルクスが「経済学批判序説」の終りで云っている文化・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・文学の真の発展が阻害されている一時期に生じる作家と読者との黙契的諒解の上に依存して、作者の不分明な思惟や紛糾した表現を、それが不分明であり不鮮明であるため却って読者の方が暇にあかせ根気よく、各自の気分で読んで、むこうから解説し内容づけてくれ・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・「当院が今日の如く隆盛におもむいた以上さらに有料寝台を増して、その利益配当を最初犠牲的社会奉仕をしたX嬢その他出資者に分つのが最も合理的な感謝手段であると思惟す」と。 もっとも決議に出資者らが何と答えたかは出ていない。出資婦人達はオスワ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・という概念を用いて合理的な思惟を勧めている点である。彼はいう、「算用を知れば道理を知る。道理を知れば迷ひなし」。その道理というのは、自然現象の中にあるきまりを意味するとともに、また人間の行為を支配する当為の法則をも意味している。しかもその後・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫