・・・――…………………………はれて逢われぬ恋仲に、人に心を奥の間より、しらせ嬉しく三千歳が、このうたいっぱいに、お蔦急ぎあしに引返す。早瀬、腕を拱きものおもいに沈む。お蔦 貴方、今帰ってよ。兄さん。早瀬 ああ・・・ 泉鏡花 「湯島の境内」
・・・ 宇野浩二氏の作品でたしか「長い恋仲」という比較的長い初期の短篇は、大阪の男が自分の恋物語を大阪弁で語っている形式によっており、地の文も会話もすべて大阪弁である。谷崎潤一郎氏の「卍」もやはり、大阪の女が自分の恋物語を大阪弁で語っている形・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・そのあとに随いて行き乍ら、その二人は恋仲かも知れないとふと思った。この男を配すれば一代女の模倣にならぬかも知れないと、呟き乍ら宗右衛門町を戎橋の方へ折れた。橋の北詰の交番の前を通ると、巡査がじろりと見た。橋の下を赤い提灯をつけたボートが通っ・・・ 織田作之助 「世相」
出典:青空文庫