・・・何故なら、作家と作品との間にそういう甚しい分裂が生じたのは、この数年来文学の世界に真の現実諸関係を生かそうとせず、作家の恣意によって風俗の一断面を自身の鏡の下において眺めたり、思念の断片を一つの世界に拡大して見たりして来ていた文学への云って・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・「労働者階級の意識は、たとえそれが如何なる階級に関係したことであろうとも、恣意と圧制、暴力と濫用が行われたときは、いついかなる場合にも黙過しないようにならされているのでなければ、真に政治的な意識ではない」ということは、民主主義とその文学・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・婦人の読者という側からみれば、今日は、きのう、おとといの女と自分たちの現実の低さはけっして劣るともまさっていないのに、青春の感覚のなかでそれに抗議する敏感さがうしなわれていて、むしろ恣意的な傾向があらわれて来ていることが考えられるのではなか・・・ 宮本百合子 「婦人の読書」
出典:青空文庫