・・・一つは、そこの家族を安心させるためであったが、もし出来ない返事が来たらどうしようと、心は息詰まるように苦しかった。「………」吉弥もまた短い手紙を書きあげたのを、自慢そうだ――「どれ見せろ」と、僕は取って見た。 下手くそな仮名文字・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・この息詰まる空気の中で、木は、刻々に自分の生命の枯れてゆくのを感じながら、「見ぬうちは、みんながあこがれるが、おとぎばなしの世界はけっしてくるところでなく、ただ、きくだけのものだ。」と、しみじみ悟ったのでありました。・・・ 小川未明 「しんぱくの話」
・・・ 暗い、暑い、息詰る、臭い、ムズムズする、悪ガスと、黴菌に充ちた、水夫室だった。 病人は、彼のベッドから転げ落ちた。 彼は「酔っ払って」いた。 彼の腹の中では、百パーセントのアルコールよりも、「ききめ」のある、コレラ菌が暴れ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
出典:青空文庫