・・・は客観的事実であり、これは科学の場合と同様に、無限なる利用と悪用の可能性を包蔵している。 もちろんすべての知識には悪用の危険性を含んでいる。科学知識も同様である。しかし科学は全体として見れば人間一般の福利を増進するつもりで進んで来た。も・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・如何となれば、もし薄弱なる背景があるだけならば、徒にインデペンデントを悪用して、唯世の中に弊害を与えるだけで、成功はとても出来ないからである。 此処に成功という意味についても説明を要する。また強い背景という事についても説明を要するが、強・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・自分の愛を最もたえがたい方法によって悪用されまいとするだけにも、絶間ない精神と肉体の緊張を必要とした。 一九三三年はこういう時期であった一面に、プロレタリア文学運動は最後的な紛糾状態におかれていた。林房雄その他の人々によって、それまでの・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・日本の人民は自分たちの政治的無経験がどんなに悪用されているかということについて目を覚ましはじめている。このようにして日本の民主化とその文化建設の段階は、より複雑なより自覚的な新しい第四の時期に入った。・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・ 文学との関係で政治がいわれる場合、その政治は、けっして文学の利用者また悪用者としての政治を意味しない。この社会に対立して存在している階級と階級との間の諸経緯ならびにそのたたかいをさしている。一人の人といえども、この社会では階級に属さな・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・必ず、それは悪用される。現在の日本の事情では、害あって益ない出版取しまりの法律などをつくることはしないという出版綱領委員会の決定になりました。この委員会の2/3は業者の代表でした。1/3が文学者、教育家、図書館関係者でした。小林珍雄氏、日比・・・ 宮本百合子 「「チャタレー夫人の恋人」の起訴につよく抗議する」
・・・労働者自身がもっともよく遅れた労働者がどんなに階級の負担であるかということとそれを悪用する勢力の現実を知っています。民主主義文学は、初期の無産者文学ではありません。第一次大戦直後のプロレタリア文学でもない。世界ファシズムの発生につれ、ファシ・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
ソ同盟に対する引揚促進運動は、さきごろ、はっきりした反ソ運動の一つのかたちとして悪用されていた。内地の暮しがくるしくて家族の生活のたちゆかないのは、ソ同盟から帰ってこない一人の人が、家族のなかにあるのが主な理由ではない。吉・・・ 宮本百合子 「肉親」
・・・すなわち解放せられた自然的欲望はその自由の悪用のゆえに貪婪の極をつくしてついに自分を地獄に投じた。人智の誇りであるべき自然力征服は、それ自身においては「文化」を意味し得るようなものでないということを遺憾なく立証した。ここで自然科学崇拝の傾向・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫