・・・コンミューン亡命者の婦人達がしばしば彼女を思い出すであろうと同様に、われわれ同志はなお更しばしば彼女の大胆、かつ賢明な忠告を惜しむであろう。」「他人を幸福にすることを自分の何よりの幸福と考えた婦人があったとすれば、彼女こそ正しくその婦人であ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・その遽しさ、幸福を二人の手の間からとり落すまいと、互に扶け合って時を惜しむ営みの姿のなかには、涙ぐまれる眺めがある。けれどもそこには、甲斐甲斐しさもあるし、運命をさけてまわらないでそのなかから最上のものをとり、最上と思われる生きかたの道をつ・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・ 骨を惜しむな!」小さい支柱の故障だと云って放って置くな。落盤はいつ起って君らを圧死さすかもしれぬ。 ソヴェト同盟の炭坑では労働者がどんなに作業の危険を防ごうと互に注意しあっているかがありありと感じられた。このポスターを見ただけでも、会・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ならば、いろいろのつけたりなしで、そのひとを好きとおし、結婚するなら二人が実際にやってゆける形での結婚をし、勇敢に家庭というものの実質を、生きるに価するように多様なものに変えてゆくだけの勇気と努力とを惜しむなということである。そういう意味で・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・それでもおれは命が惜しくて生きているのではない、おれをどれほど悪く思う人でも、命を惜しむ男だとはまさかに言うことが出来まい、たった今でも死んでよいのなら死んでみせると思うので、昂然と項をそらして詰所へ出て、昂然と項をそらして詰所から引いてい・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 無政府主義と、それといっしょに芽ざした社会主義との排斥をするために、個人主義という漠然たる名をつけて、芸術に迫害を加えるのは、国家のために惜しむべきことである。 学問の自由研究と芸術の自由発展とを妨げる国は栄えるはずがない。・・・ 森鴎外 「文芸の主義」
・・・特に人を動かすのは浅川巧氏を惜しむ一文であるが著者はここに驚嘆すべき一人の偉人の姿をおのずからにして描き出している。描かれたのはあくまでもこの敬服すべき山林技師であって著者自身ではない。しかも我々はこの一文において直接に著者自身と語り合う思・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
出典:青空文庫