・・・ところが耕助ははじめからじぶんの見つけた葡萄藪へ、三郎だのみんなあんまり来ておもしろくなかったもんですから、意地悪くもいちど三郎に言いました。「わあ、三郎なんぼ知らないたってわがないんだぢゃ。わあい、三郎もどのとおりにしてまゆんだであ。・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・だからあいつは意地悪で、あまりいい気持はしないけれども、さっきも、よう、あんまり空の青い石を突っつかないでくれっ、て挨拶したんだ。するとあいつが云ったねえ、ふん、青い石に穴があいたら、お前にも向う世界を見物させてやろうって云うんだ。云うこと・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・「だって先生先生のおかげで、兎さんのおばあさんもなおりましたし狸さんのお父さんもなおりましたしあんな意地悪のみみずくまでなおしていただいたのにこの子ばかりお助けをいただけないとはあんまり情ないことでございます。」「おいおい、それは何・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・それは小吉という青い小さな意地悪の百姓でした。 小吉はさっきから怒ってばかりいたのです。(第一おら、下座だちゅうはずぁあんまい、ふん、お椀のふぢぁ欠げでる、油煙はばやばや、さがなの眼玉は白くてぎろぎろ、誰っても盃よごさないえい糞とうとう・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・するとラクシャンの第一子がちょっと意地悪そうにわらい手をばたばたと振って見せて「石だ、火だ。熔岩だ。用意っ。ふん。」と叫ぶ。ばかなラクシャンの第二子がすぐ釣り込まれてあわて出し顔いろをぽっとほてらせながら・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ 口々の不平を泰然と岡本はちょいと意地悪そうに眉根をぴりりとさせながら、「生憎海老が切れましたから蝦姑にいたしました」と答えた。――忠一や篤介と岡本は仲が悪く、彼等は彼女がその部屋におるのに庭を見ながら、「おい、うらなりだね・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・夢の中にあり乍ら、私は、十七の生徒で真個に意地悪を云われた時と同様の苦しい胸の迫る心持になった。すると、突然、今まで居るとも思えなかった一人の友達が、多勢の中から突立ち、どうしたことか、まるでまる真赤な洋服を着て、非常に露骨な強い言葉でその・・・ 宮本百合子 「或日」
・・・ 政子さんにそう云う心持が起って来ると、世界中が、急に辛く、悲しく、意地悪いもの許りの集りのように見えて来ました。 物を見るのも、感じるのも、みな心の働でございますものね。政子さんが、そういう心持になれば、直ぐ何でもが、心の思う通り・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・ミス コーフィールドの意地悪。コロンビアの高い壁 三十一日 ミス ダニエルに会う。あの部屋。午後Aは今井に会うため、自分は帽子を買いに出かける。 Fifth Ave. で此の青い指環を買う。四月 六日 日曜 歩・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・が出かけていじめられて居てもたれ一人味方になって呉れる人もない中でまっさおなかおをして唇をかんでポロリポロリと涙をこぼして居るのを意地悪の子供達はまわりにたかってヤンヤとはやして居る事がたびたびあった。学校がひけてあとも見ずに大河端にある家・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫